結論
最初に結論から申し上げますと、基本的にはこれまで通り、銅の自然な緋色を活かし、表面に何かしら塗布したり、磨いたりしない、鮮やかで美しい緋銅の作品を制作していきます。
無機系ガラスコーティングについては、ご要望に合わせて丁寧に対応していきたいと考えております。
正直なところ、未だ模索している段階ですが、この導入によって緋銅の新しい世界が広がり、更に多くの方に認知される展開を期待しています。
ここからは、導入のきっかけ、これまでの経緯、導入を決めた理由について、ご説明したいと思います。
導入のきっかけ
緋銅ナイフレストのご依頼を受けるにあたり、その用途方法から何かしら対策の必要性を感じ、真剣に検討を始めました。
実は、酸化皮膜の保護は以前も検討したことがあり、市販されている既製品で試したことがあったのですが、良い結果は得られませんでした。
それ以降は、表面に加工することに対しては後ろ向きというか、反対派とまでは言いませんが、導入には慎重派の立場でした。
そもそも今回の受注がしたいがために導入するという理由は、緋銅の活動において本末転倒です。
自分が納得でき、自信をもっておすすめできるものでなければ、たとえ依頼が取消になるとしても、正直に伝える覚悟で取り組みました。
そこで、前回の教訓を踏まえ、餅は餅屋という言葉があるようにコーティングを製造しているメーカーを探し、直接連絡をしました。
各社様とも個人レベルの問い合わせにも関わらず、協力的に対応して頂きまして、本当に感謝しております。
金属の表面保護を目的とした製品はいろいろあります。
製品の説明文は、基本的には特長が強調されていることが多いですが、選定する上での参考にしました。
さらにインターネットでキーワード検索を行い、気になるサイトを閲覧しらながら情報収集していきました。
今回は用途目的が明確なので、『塗布後の効果』を重視して選定しました。
一般的には市販(流通)していない2種類のコーティング剤を入手し、比較試験をする運びとなりました。
※2種類の詳細については、ここでは控えたいと思います。
導入までの経緯
ここまでは順調な流れできましたが、ここからの試験が重要となります。
試験期間を設定して、精密な検査はできませんが、比較の方法と検証の方法を決めました。
特に塗布については心配で、製品がどんなに優れていても、塗布方法が間違っていれば、正しい効果を得ることができません。
説明文だけでは、どうしても不安が解消されることがなかったので、慎重に準備を行いました。
2種類の比較は、早い段階で結論が出ました。
緋銅との相性、つまり密着力の差が顕著に現れました。
1種類のコーティング剤に絞れましたので、ここから検証を始めました。
塗布の対象作品は下記の通りです。
・指輪(鏡面と鎚目仕上げ)
・鏡面(バラの花びら)
・手彫り(カメ)
・凹凸(フ環リーと梅の花)
鏡面とフ環リーは、屋外放置で変化の検証を行いました。
カメは、塩水に浸してから、放置して変化の検証を行いました。
梅の花は、加熱の検証を行いました。
それぞれ未処理の緋銅作品も加え、比較の対象としました。
検証の結果は、放置した状態では、どちらも表面に変化は見られませんした。
指輪については、実際に着用(制作・作業時は除く)して検証を行いました。
1週間後からは、未処理の緋銅リングと重ね付け(できるだけ同条件にするため)をして、さらに比較検証を行いました。
効果のまとめは、下記のことが挙げられます。
・撥水性・撥油性
・耐候性
・密着力
・硬度
この中にはない、身体への影響は指輪の着用で検証しました。
私自身は、ポリエステルなどの化学繊維の衣服は痒くなるので、綿もしくは綿の多い衣服を選んでいます。
食事も…タバコも…お酒も…花粉症で…などなど、つまり恐らく有害であるものであれば何かしら感じ反応すると思います。
無機系ガラスコーティングの製品は慎重派の自分が認める程、優れていると実感したひとつは密着力です。
イメージとしては、外圧による衝撃の広がりを最小限に抑えることができるのです。
つまり、外観上の変化を最小限に抑えることができるのです。
さらに、最初の段階から担当者様の対応も素晴らしく、事細かな質問や相談に対応して頂き感謝しています。
このご縁があればこその検証結果に、自分としては納得ができましたし、これ以外の製品の選択肢はないと確信しました。
導入の理由
試験結果について、まとめると下記のようなことが挙げられます。
・塗膜の厚みが薄いため、見た目には塗布されているか分かりにくい。(ただし、塗布方法により若干異なる)
・緋銅との相性が良い。(長期間の付着が期待できる)
・肌触りに違和感、不快感がない。
・液剤の臭いは、ほとんど感じない。
・耐火(熱)性はあるが、熱は中まで伝わるため銅の変色は生じる。
・本来の色味に対して、若干深みが見られる。(美しさは損なわない)
・色ムラ(グレイ系の皮膜)の色味が若干淡くなり明るく見える。
ご依頼主様との数回の打ち合せの中で、経緯を報告しながら、その過程での試作品をお渡し検討して頂いたりしました。
ナイフレストとしての実用性やデザインなど、段階を踏んで、双方納得する形となり、正式に依頼を頂き導入する流れとなりました。
もちろん、無機系ガラスコーティングの処理を行っても解決できないこともあります。
しかし、未処理の状態と比較したとき、得られるメリットは大きいと思います。
ご依頼主様には、このような機会を与えて頂き、ご依頼してくださったことに心より感謝しております。
誰が見ても魅了してもらえるように、たくさんの想いを込めて、美しくて愛らしい緋銅のナイフレストを制作させて頂きました。
注意事項
最後に、無機系ガラスコーティングの注意事項をご説明します。
・塗布により、干渉縞が発生する場合があります。
・本来の色味と比べて若干色味が変化する場合があります。
・塗布後、完全に硬化するまで2週間かかります。
・塗布を行っても、必ず外観上の変化は生じます。
・洗剤(アルカリ性・酸性)の使用は、避けてください。
コーティング後に硬化が始まりますが、注意事項の中にありますように、一気に硬化はしません。
初期、中期の硬化の状態ではなく、完全に硬化した状態になってから作品を発送したいと考えております。
そのため、受注期間は(塗布作業や発送準備などを含め)3週間と設定しております。
なお、無機系ガラスコーティングの効果や試験結果については、緋銅の未処理と処理での比較になっています。
しかし、何かと擦れたり、曲げたり、ぶつけたりなど、外傷を与えた場合は、処理の有無にかかわらず外観上の変化は生じます。
そのため、お手入れ方法や注意事項についても、これまでと同じように取扱いして頂きますようお願い致します。
最後に、この無機系ガラスコーティングを使った緋銅作品のご要望や質問などありましたら、お気軽にお尋ねください。
今後も、作品を通じて緋銅の魅力をたくさんの方に伝え広めていきますので、よろしくお願い致します。