新たな世界

オーダー内容
・指輪のサイズ27.5号・幅10mm・鎚目
・指輪のサイズ8.5号・幅8mm・鏡面
制作の順番は、2本同時、もしくはそれぞれ1本づつです。
1本づつの場合は、難しい方から制作します。
まず、厚み1.8mmの銅板を切り出すところから始まります。
その前に、外径と内径を決めます。
オーダーですから、サイズと幅は毎回違います。
それらの過去の実績を基に、数値を算出して決めています。
1回目の試作を行い、結果を分析・修正して2・3回と試作することで、ベストな数値がわかります。
しかし、今回は過去の実績が通用しない、別次元のものでした。
虚空蔵菩薩さまの声

27.5号・幅10mm・鎚目の指輪から制作開始。
1回目の試作の結果から、数値を思い切って下げた2回目も失敗。(写真:左・中央)
これで指輪にならなければ制作は不可である、という数値を算出。
3回目の試作前に、テラデマルシェに出展しました。
宋雲寺のご本尊は、智慧や知識を与えてくれる虚空蔵菩薩様です。
開催中に「あと1mm小さく」と閃きがありました。
実は、数値を算出するときに、±1mmで迷ってプラスを選択していました。
祈るように3回目の試作開始、1回で納得できる結果(成功)となりました。
この後も、いくつか難題はあるものの、この成功は大きな前進でした。
通常の約2.5本分の行程

リング棒のメモリは、1号から30号までなので、27.5号にするまでの成形作業(焼きなまし・叩くの繰り返し)は、1時間半~2時間と通常の約2.5本分の時間を費やしました。
制作は3本づつなので、気持ち的には6本分…最後の火入れもいつも以上に気合いを入れます。
結局、制作は2巡しましたが、見事に納品レベルに仕上がりました!
検品を終えた後は、喜びと緋銅の美しさに浸っていました。
長い期間、楽しみにしてお待ち頂いていたご依頼主さまに、完成の連絡ができるのも、また大きな喜びでした。
ただ、今回の結果から、次の幅8mmも8.5号とサイズが小さいため、苦戦することが予想できました。
でも、ここまで来たら、完成するまで諦めません。
物理的不可能サイズ

製品のリング棒は、1号からですが、8.5号にするためにはそれ以下からスタートする必要があります。
そこで使用するのが、手作りリング棒です。
一番右が1号になっています。
一番左からスタートして、できるだけ上下を平行になるように叩いていきます。
つまり、算出した数値は、最小値でこれで失敗すれば、物理的に制作は不可能という結論になります。
虚空蔵菩薩様は最後まで導いてくれると信じた結果、3回目の試作でベストな数値が算出できました。
いよいよ本番、3本のリングを制作していきます。
そして、最後の行程に待っているのが、火入れです。
本当に限界と言えるのか?

2巡目で納品レベルの仕上がりと1度は判断したのですが、「これが本当に限界かい?」と心の声に、3巡目の制作を決めました。
前作を超えられなければ、限界を証明できます。
もちろん、その為ではなく、前作を超えるつもりで挑戦します。
結果は、前作を超えることができました。
しかし、ここでも同じように心の声が「これが本当に限界と言えるのか?」
今は9合目、目の前に山頂が見えている。
ここまで来たら、最後まで登りきると、4巡目の制作を決めました。
その結果、遂に心の声が無くなる仕上がりになりました。
諦めることなく、登り切ることができたのは、とても大きな経験と自信になりました。
そして、これまでの号数・幅の実績を、同時更新することができました!
完成です!

ー1点集中ー
制作に入ると、工房以外の時間でもそのことについて考えています。一気に作業することはなく、日々コツコツと根気よく積み上げていく1点集中タイプです。
ー火入れは1発勝負ー
失敗した場合でも、皮膜を削り除けば、2回程度の火入れは可能です。しかし、削ることで表面に凹凸ができたり、厚みが薄くなったり、デザインに影響します。また、完全に削り落とせず残ることもあります。なので、1発で上手くいったものだけを作品にしています。
ー上手くいったら誰かのお陰、失敗したら自分の責任ー
結果に対しての自分の捉え方です。
ーすべてに理由があるー
結果には、何かしらの理由がある。だから、どんなことでも学びや気づきが隠れているから、理由を探るのは楽しいです。
緋銅オーダーリング

ー成功率33%・16%・11%・8%ー
これはオーダーリングの場合ですが、数字だけで見れば非効率でコスト面で赤字です(笑)しかし、記念品のご依頼が多いので、最高の作品をお渡ししたい気持ちの方が大きいです。
ー制作期間についてー
一昨年7月に初めてサイズ20号のリング制作をしたときは、約1ヵ月間要しました。これは稀で、1本納品レベルになるまでは2~3週間です。
ーPLUSとはー
自分としては、最高の作品なので家宝にして欲しい気持ちと、身につけて欲しいという気持ちがあります。そこで、思いついたアイデアがこのPLUSです。
ー僅差に見るが、実際は大きな違いー
多くの方が初めて見る緋銅なので、納品レベルを満たしたものと満たさなかったものの違いは、僅差に見えると思います。でも、この僅差を埋めるのが本当に難しいのです。
色々長々と綴りましたが、納品する1本にかける熱量が伝わると嬉しいです。また、火入れは偶然(奇跡)なところもあり、特別な指輪であることはご理解していただけると思います。自分の想いだけではなく、ご依頼してくださった方の想いも込めた世界にひとつだけの縁起物として、緋銅リングをご依頼していただければ幸いです。