手話は言語です
書籍「ろう者のトリセツ 聴者のトリセツ -ろう者と聴者の言葉のズレ-」著:関西手話カレッジ(出版社:星湖舎)
この本は、「手話は日本語とは異なる独立した言語である」とろう者と聴者の言語や文化の違いを知るために書かれたものです。
また、ズレを埋めたり・ズレをなくすためではなく、ズレを知り、それを理解し、認め合うことを目的としています。
興味のある方は、この本を手に取って頂きたいと思います。
ここでは、自分がこの本の中で印象に残る部分を書き残したいと思います。
参加と出席
参加
聴者の場合、責任あるものから自由なものまで幅広く使います。
ろう者の場合、責任が軽いものや自由参加のものに限定して使われます。
出席
聴者の場合、授業・会合など所属メンバーとして出ることに使います。
ろう者の場合、責任があるものや積極的に出るときに使います。
聴者は、参加と出席をしっかり使い分ける必要があります。
するつもり
例えば、「明日は、行くつもり。」
自分が行動する確率は、聴者は90%に対して、ろう者は30%です。
また、「明日、行ったほうがいいよ。」
これも、ろう者にとっては、1つの選択肢として受け止められるので相手が行動する確率は低いようです。
「明日、行くと思う。」
この場合には、ろう者が行動する確率は50%となります。
聴者は、断定した言い方を避けたり、控える傾向にあります。
あいまいなニュアンスでは、ろう者には伝わりにくいということです。
時間
聴者:「ロビーに、10時10分前に集合してください。」
ろう者:「分かりました。」
この結果、ロビーに集まった時間は、聴者は9時47分、ろう者は10時7分でした。
聴者:「ロビーに、9時50分に集合してください。」
ろう者との時間を決めるときは、はっきり伝えた方が良い。
目が高い
聴者の話す言葉(以下:聴語)で、「目が高い」は、目が利く・鑑識眼があるなど、よいものを見分ける能力があるときに使います。
手話では、同じ意味もありますが、他にも意味があります。
例えば
・探し物が見つからないときに、それを見つけてくれた人に対して、目が高い。
・自分が見落としている間違いに気づいた人に対して、目が高い。
・初対面のイタリア人ろう者と30分後には手話で話せるようになった人に対して、目が高い。
など、他にも様々な場面で、目が高いという手話は頻繁に使われている。
その逆もあり、「目が安い」という手話があります。
聴語にはありません。
食べ方
例えば、食材の魚。
聴者:「魚の食べ方で好きなのは、塩焼き。あと、刺身や煮魚も好き。フライは苦手かな。」
ろう者:「魚の食べ方は、頭ごと食べるのが好き。」
魚の食べ方という言葉のイメージは、聴者とろう者は違います。
ろう者からすると、聴者の話している魚の食べ方は、「魚の料理法」になります。
手話では、「食べる」と「料理」は区別されていますが、聴語ではどちらでも通じることがあります。
朝ごはん
これは有名な話らしいです。
医者:「明日は検査ですので、朝ごはんは食べないで来てください。」
翌朝
ろう者:「朝食は、パンを食べてきました。」
聴語では、朝ごはんは、朝の食事全体を意味します。
ろう者は、朝のごはんを意味します。
悪くない
評価レベルの言葉は、聴者とろう者ではズレがあります。
手話の【悪くない】は、ろう者にとって、最高レベルの評価を意味します。
まあまあ
これも悪くないと同じです。
手話の【まあまあ】は、ろう者にとって、割りと良い・なかなか良いという評価を意味します。
まし
評価レベルは、まあまあの上、悪くないの下となります。
手話の【まし】は、ろう者にとって、普通よりももっと上のかなり高い評価です。
「まし」といわれたら、素直に喜びましょう。
クビ
ろう者が使う【クビ】は、親しい間柄で使う日常語です。
クビと言われたら、それは距離が近くなった証拠です。
つまり、クビには、「頑張れ」という励ましの意味があります。
逆に、【上手】と言われているうちは、まだまだ足りないという意味らしいです。
めんどう
ろう者は、口癖のように【めんどう】をよく使いますが、聴者が使う「面倒くさい」とは意味が異なります。
ろう者のめんどうは、何か頼まれて嬉しい時も、照れ隠しのニュアンスで【めんどう】を使います。
聴者でも、照れ隠しに否定的な言葉(阿保・馬鹿)を使うのと同じニュアンスですね。
顔の文法
聴者の言語「日本語」とろう者の言語「手話」は、同じ言葉で同じ意味もあります。
しかし、同じ言葉でも実は違う意味や概念で使っている言葉もたくさんあります。
手話の文法には、手以外にも、口型・眉の動き・目の見開き方・顎の動きや位置なども意味があります。
【顔が主食、手はおかず(副食)】
聴者がろう者の手話を読み取れない1番の原因は、ろう者の手ばかりを見ているからです。
そのため、読み取れないときには、「口を見て!何て言っている?」、「顔を見て!どんな表情してる?」と言われます。
つまり、読み取るためには、ろう者の顔を見つつ、手の動きを追える広い視野で見る必要があります。
ちょっと
最後に取り上げるのは、聴者がよく使う「ちょっと」です。
聴者:「ちょっと、この場所にチラシを貼るのは困りますね。」
ろう者:「わかりました。たくさん(チラシを)貼りますね。」
この場合には、はっきりと【ダメ】とか【許可しない】などの表現で伝える必要があります。
また、理解したという意味で、「ちょっとわかった。」の場合には、ろう者の解釈は、「ちょっと」⇒「少し」⇒「大方」と使い分けています。
聴者は、曖昧な言葉を選びやすいので、具体的な(数値化、視覚化など)言葉を選ぶことを心掛けるといいようです。
手話の魅力
いかがでしたでしょうか。
日本人は、外国人と比べると、謙虚・控えめの文化と言われることもあります。
その文化の対象は、聴者だとすれば、ろう者との向き合い方もより理解できると思います。
全国で、手話言語条例を制定している都道府県・市町村は広がっています。
これから、ますます手話も普及して、身近に感じる機会が増えると思います。
最初は、違和感を感じるかもしれませんが、学んでみると多くの気づきがあります。
そこで、手話の魅力を感じることができると思います。
これをきっかけに、新しいことをしたいと考えている人が、手話学習を選択肢に加えて頂けたら、嬉しいと思います。