受け継がれるのがジュエリー
最初に、ジュエリーを拝見する事から始まるのですが、その時に一番気にしているポイントがあります。
それは本人とそのジュエリーにまつわるエピソードです。
そのジュエリーを手に入れたきっかけから、現在に至る経緯、経過などを振り返ってもらいながら、その方の想いなどをお伺いするようにしています。
ジュエリーそのものの価値基準はもちろん大切ではありますが、それ以上に、持ち主である本人がそのジュエリーをどう思っているかが、価値を作り出しているからです。
時に、過大評価されている時もありますし、過少評価されている時もあります。
そこは、これまでの経験を含めて専門家として、お伝えすることも大切だと考えるからです。
本人の要望を優先します

今回の事例は、Pt900ダイヤモンドの指輪です。細身のハーフエタニティでダイヤモンドは全部で15pc使用されています。これをリフォームしたいとの相談でした。

- どの指につけたいか
- 使用頻度・用途は
- どんなデザインがいいか
- 素材は
などざっくりとお伺いします。
カタログも使用することはありますが、あくまでも参考程度です。
テーマとして、波のあるシンプルなデザインがいいとのことで、いくつかデザインを描きました。
リングとピアスを手作りします
指輪は小指につけるピンキーリングにダイヤモンドを9pc使用します。
残りの6pcを使って、ピアスを作成します。
ピアスのデザインはアクセサリーでお気に入りのものがあるので、同じデザインでプラチナで作ることになりました。
キューブ型のとてもおしゃれなピアスです。
指輪に関しては、前回描いたデザインで一番下の指輪で決定しました。
そのデザインを今度はワックスで制作します。

こちらがワックスで作った指輪の原型。サイズの最終確認とイメージを確認します。今回は、これは試着用として制作しました。実際には、これと同じ指輪をプラチナの地金から製作します。ピアスもリングも職人によるオーダーメイドとなります。
すぐに加工しませんし、断ることもあります
今回のリフォームまでの流れは、以下のとおり。
- 初回:面談
- 2回目:ピアスとリングにする案の決定
- 3回目:ピアスのデザイン案とリングのデザイン案決定
- 4回目:ピアスのデザイン案の見積もりとリングのデザイン案の見積もり、下取り貴金属の追加預かり。
- 5回目:リングのデザインサンプル(ワックス)を試着。下取り貴金属の金額見積もり。
元のプラチナのリングは下取りします。加工賃に充てて頂きました。
完成までは約2週間です。
今回この指輪以外にも、複数のジュエリー、アクセサリーの加工依頼の相談をお受けしました。
その中にはお断りした品もいくつかありました。
それぞれに理由があるのですが、加工が困難な素材などのモノの面と、費用を掛けてまで加工する明確な意義などの心の面で判断しています。
仕事が減るから、売り上げが減るからという店側の都合でなんでも引き受けるというのは、志事ではありません。
その人にとって、ジュエリーを加工することで、「感動と喜びが増える」ことを基準に相談に対応しています。



打ち合わせの中で本人がよく口癖のように、「娘はジュエリーに興味がないから…」とおっしゃられていました。
その言葉の裏には「自分のジュエリーを娘に残したい」という想いがあることを感じていました。
自分と若い世代の好みや趣味は違うから、とりあえず自分が楽しんで娘に残そう。
その後に、使うもリフォームするも売るのも娘に任せると、今回依頼してくださいました。
お渡し当日、完成したピアスとリングを見て「このデザインなら娘も使うって言ってくれたよ。
でも、譲るのは自分が楽しんでからね。」と嬉しそうに話してくれました。
ジュエリーとは、毎日のように使えて、アフターメンテナンスができて、受け継ぐことができるもの。
今回の件は、まさにそれを実現することができました。
本当に良い仕事をさせて頂きました。