デザインが大きく左右する
婚約指輪や結婚指輪では、通常あまりサイズ直しをする機会があっても、前後#2程度なので、あまり問題になることはありません。
ただし、フルエタニティ―や全周に模様が施されてるデザインなどを選ぶ場合には、サイズ直しのことは購入時にしっかりと聞いておきましょう。
今回の「大幅なサイズ直しは要注意」については、一般的なジュエリーのサイズ直しの話です。
基本的には、プラチナ、金、シルバーの素材であれば、サイズ直しはできます。
しかし、宝石が留めてある指輪を前後#3以上にする場合は、デザインや留め方を必ず事前に確認をしています。
K18シトリンリング#10⇒#17
今回はこのK18シトリントパーズリングのサイズを#10⇒#17にします。
もともと薬指に合わせていたのですが、ボリュームのあるデザインなので、中指につけるために大幅なサイズ直しをすることになりました。
ほとんどの指輪の内側の形は〇です。
サイズを直す場合には、宝石を一度外します。
それから、内側の〇を7番大きくします。
指輪の下あたりを切断してから地金を足します。
その際に、切断した両部分を広げます。広げるとどうなるのか?

宝石を支えている石座の部分(太い赤ライン)がゆがむ恐れがあります。
ゆがむと今度は宝石を同じように留めようとしても爪(青矢印)で抑えても動いてしまいます。
振ると「カタカタ」音を立てるくらい緩くなります。
依頼主には、お預かりの際に何か問題がありそうな場合には、事前に説明をさせて頂き、「真円」のままがいいのか、「楕円」になっても構わないかを確認します。
楕円なら石座には負荷はかかりません。
それに、身につけている限り見た目には真円と変わりません。
それでも楕円は嫌という場合にどうするのか。
その時に多い対応は、爪と宝石の隙間にボンド接着をします。
ボンド接着は一部の宝石、ジュエリーのアイテムなどで使われているので、この対応は職人の間では当たり前のように通用するのです。
ただ、個人的には納得できるものではないし、勧めたくないです。
理由は宝石と石座のバランスは悪いままだからです。
同じ修理と言ってもそのやり方は違います
なぜ、こうしたことが行われてしまうのか。
その理由は、工賃とリスクが見合わないからです。
手間をなるべくかけずに安さを提供する。
修理料金の安さを求める側とその等価の仕事。
結局、依頼の目的であるサイズ直しさえすればOKという感覚と、職人は無理に爪で留めようとして宝石が割れた時の責任リスクは抱えられないのです。
割れた宝石を弁償させられたら、職人は仕事になりません。
また、接着は素人にはわからないという感覚を持っているところもあります。
どちらにしても、そういったこともあるということは事実なので、ご自身の大切な指輪をサイズ直しするときには信頼できる工房に依頼することをおすすめします。

Before

After
指輪の内径の広がりに合わせて、石座の枠も加工する。
手間も費用もかかります。
しかし、それ以上に満足感を得ることのメリットの方が大きいです。
加工代に対する考え方は人ぞれぞれです。
ただ、安く請け負う工房と、正当な金額で請け負う工房では
仕事に対する姿勢が違うということだけは、ご理解して頂きたいと思います。