涙の理由

なぜ、彼女が涙目になったのかは、その真意はわかりません。

ただ、明らかに彼女にとって感情的になる話だったことには違いありません。

隣にいた彼は、彼女の涙に気がついたのだろうか?

 

その涙目になる前、自分は何を話していたのだろうか。

結婚指輪を手作りしたいとふたりで工房に来てくれました。

一緒に暮らしているものの、お互いの仕事の環境でなかなか一緒に出掛ける時間は少ないそうです。

来店予約の連絡をくれたのは、彼の方でした。

 

ふたりで工房にこられた時は夜だったので、おそらく他の手作り指輪の店にも足を運んでいたようでした。

指輪を選ぶときは、1件ではなく数件見て回るのは、どの情報誌にも載っている事なので、それには特に触れません。

 

毎回の打ち合わせでは、説明する順序はその方に合わせて、組み立てます。

その方が、シンプルですし、お互いの時間の短縮になります。

 

・完成までの日数

・制作予約について

・指輪の金額

 

1つ目、2つ目と順調に説明を終えて、最後の金額。

この金額の段階で、相互に不調和の空気が漂い始めました。

 

お互いにどんな結婚指輪を作りたいのか?

この時には、二人の意見が食い違ってもいいし、デザインは全く考えていないということでも、何でもいいのです。

ただ、そこからお互いにデザインを意識し、意見を出し合うことが大切なのです。

 

「そこまで、こだわりがない」

「金属の色さえ好みだったら、デザインはなんでもいい」

「描くのは下手だから」

彼女から出てきた言葉です。

 

さらに、婚約指輪の話になり、彼女は彼に「いらない」と言ったそうです。

「ダイヤモンドに魅力を感じない」

「誕生石だとケチっていると思われる」

その時の彼の表情に、心の中で同情しました。

 

これまでプランニングしていると、いろいろと考えさせる機会に恵まれます。

ふたりの人生の中でも幸せにいる状態で関わらせて頂いてる。

専門家として指輪に対しての役割と責任は重大だと思っているし、幸せな仕事だと実感している。

 

感動と喜びを増やすを理念にしているのは、自分で手作りをして良かった。リンプラで作って良かった。

そう言って貰いたいからです。その言葉が心の支えになり、手作り指輪の輪を広げるエネルギーになっています。

 

自分のところで手作りされた方の婚約指輪や結婚指輪は、どれも逸品が揃っています。

打ち合わせでは、その逸品集をお見せしています。

自分にとって大切な宝物でもあるものですが、あえてふたりにお渡しをして、ふたりのペースで見てもらいます。

 

・ペラペラとページをめくる

・1枚1枚の指輪をみる

 

制作と創造がリンプラの手作り指輪です。

指輪を作ることだけが、思い出作りではありません。

「誰でも作りたいという想いがあれば、作れるものです」

 

手作り指輪は無形と有形の2つの領域があります。

無形とは、創造の領域です。

無形と有形は、制作の領域です。

有形とは、指輪です。

この2つの領域を体験して、初めて手作り指輪に満足していただけるのです。

 

指輪のコンセプト

「なぜ、この指輪なのか?」

指輪を選ぶ時には、一番最初に考える事項です。

 

この創造すること、コンセプトについて説明をした時に、彼女の目に涙が…

どんな想いが脳裏にあったのでしょうか。

それはわかりません。それまでサバサバした態度だった彼女が、一変して目に涙を浮かべたのです。

 

その涙を見た自分。

次の瞬間、自分でも驚くくらい自然と涙が溢れてきたのです。

ふたりを前にして涙を流しながら、指輪のコンセプトの大切さを説明していました。
あの時のシーンは、まるで涙で訴えているかのようでした。

 

彼女の涙の理由はわかりません。

自分の涙の理由もわかりません。

 

悔しい涙、悲しい涙、寂しい涙、同情の涙

いずれにせよ、それまでの不調和の雰囲気の影響からの涙でした。

打ち合わせで、このような事は初めてです。

 

結婚指輪を手作りするなら妥協はして欲しくない。

たかが指輪だと思うかもしれませんが、それは違います。

 

先日、結婚指輪を納品した時に感想文を頂いている最中に、彼が言った言葉が印象的でした。

感想文では「指輪の向こう側を大切に…」

この言葉はもっともっと深い部分の意味が含まれています。
自分の伝えたいことが、しっかりとふたりに伝わっていたと確信できた瞬間です。

 

自分の使命は、手作り指輪を広めることではありません。指輪を創作することで、ふたりに大切なものを感じてもらいたいのです。ただが指輪だと決めつけるのは、本当に浅はかで無知なのです。

プランニングが必要な理由は、誰でもその世界に触れることができるように導くことなのです。

 

もし次があれば、『嬉し涙』『歓喜の涙』に絶対に変えてみせます!!