ジュエリー職人の春到来

 南アフリカのプラチナ鉱山では、採掘を始めて30年経つ現在も地下約800メートルにある細い鉱床で採掘しています。プラチナを含む貴金属の高騰した価格も現在では約7年ぶりの安値をつけています。

プラチナ事情

 商品先物(コモディティー)のブーム期には、昨年爆買いでも話題になった中国での貴金属の需要や自動車業界からの影響が大きく、プラチナは金と比べて高い状態が続きました。しかし、現在はこの要因によって逆転の作用が起こっている。

 

 希少性と言われたプラチナの供給は現在では安定もしくは増加しています。そこに中国経済の景気減速と自動車大手メーカーのフォルクスワーゲンの排ガス不正発覚の影響により、プラチナの需要を抑制しているのです。さらに、プラチナ採掘主要生産国である南アフリカとロシアの通貨がともに下落しています。

 

 プラチナは、ディーゼル車のエンジンに広く使用されています。しかし、フォルクスワーゲンの排ガス不正発覚の問題はディーゼル車への需要を減らし、プラチナ需要に影響する可能性があります。

 

 現在のプラチナ需要は、中国の主に宝石用が約29%占めます。自動車のエンジンの排気ガス抑制のためのキャタライザーに用いられるのが約43%を占めています。

 

 今後、プラチナの価格は下落方向と予想されている。

今後のプラチナの動向

 貴金属の価格変動は、株式市場全般が乱高下している際の資金逃避の受け皿になっていています。ただ、ここにきてプラチナは他のほとんどの貴金属よりも大きく下げる結果になっています。

 

 2014年7月と比べて、金は約15%、銀は約32%と下落しましたが、プラチナ価格は約40%も下落しています。さらに、自動車生産に使用されているパラジウムも約40%下落しています。このプラチナ価格の急落によって、今後さらに価格が下がるだろうと予想する見方が強くなっています。

 

 プラチナの供給面では、世界最大の主要生産国の南アフリカの2015年の産出供給量は、前年比20%以上増えて430万トロイオンスと、4年ぶりの多さになったと試算発表されています。ただ、2014年は労働ストライキがあり産出量が350万トロイオンスに低迷しています。

 

 これまでプラチナは、幅広く取引される貴金属の中でも技術的に供給不足になる数少ない金属の1つとされてきました。しかし、この供給不足の問題もルステンブルグなどの鉱床からの採掘で徐々に解消されてきています。南アフリカでは、数十年にわたる採掘で簡単に掘れる鉱石は枯渇しましたが、南アフリカ通貨・ランドの下落の影響もありプラチナの採掘は継続されています。

 

 鉱業会社での支出取引通貨は主に現地通貨建てです、販売収入は米ドル建てとなり、昨年ドルに対してランドは28%、ルーブルは20%下落しました。これは投資家が新興国市場全般から資金を引き揚げたことも影響しています。

ジュエリー職人の春到来

 日本経済の景気不況やリーマンショックなどの影響は、ジュエリー業界でも大きな影響を与えました。御徒町では製造メーカーが在庫を処分して商品開発は先細りすることを余儀なくされました。さらに、貴金属の高騰により買取業者が増え、さらに宝石買取業者も増えました。

 

 ジュエリー職人はこれまで主に製品作りでしたが、このような景気の影響もあり、修理やリフォームなどの依頼にも対応したり、買取された製品の改作など、飯を食うためにいろいろな仕事を引き受けることもありました。

 

 さらに、小売業者は取引先であるメーカーや職人への賃金交渉によって少しでも利益を上げる仕組みができ上がっています。そのため、腕のいい職人でされ、その技術に対して等価ではない加工賃や仕事を依頼されることも増えました。

 

 我慢に我慢を続けて、技術を淡々と磨いてきたジュエリー職人たち。製品を作るのはジュエリー職人です。さらに、日本人のジュエリー職人の後継者問題もあります。一番の問題は、ジュエリー職人として普通に飯が食えない状況があります。

 

 知識や技術を加工賃に転嫁する必要があります。魅力を感じなければ想いだけでは豊かになれないし、限界がくる。若い日本人のジュエリー職にが不足しているのも、それが今の現状にあるからです。修理やリフォームと言っても、結局は腕のいい職人は、難易度の高い仕事ばかりが依頼されるし、そこそこの技術のところは、価格で受注を取る方法を選ぶ。

 

 結果的に、同じ新品仕上げでも価格に違いがあるのは、何でかって言われたら、純粋に職人の知識や技術の差にすぎないと考えている。やはり、どの分野の職人でも共通していることだが、技術っていうのは知識と経験によって積み上げられたもので、そこには時間を費やしてきている。

 

 職人魂でこれまで想いを貫き、我慢に我慢を重ね、苦しみを耐え抜いてきた職人にこの貴金属下落は絶好の機会ではないだろうか。もちろん、過酷な鉱山で作業されている人の賃金も正当なものであって欲しいと願っています。

 

 最前線で販売する業者は、製品に関わる人たちのことを考える必要があり、この状況はいい機会だと考えます。「貴金属が下落したので、商品割引セール」などという手法だけはして欲しくないと願います。