天然宝石以外の石たち

合成石

合成石は、化学的に合成された宝石のことです。天然宝石と同じ物質であるため物理的特質は同じです。工業製品に利用する目的のために作られたものです。日本では合成石と言えば京セラのクレサンベールが有名です。

ルビー、サファイアの合成コランダム

溶融法のベルヌーイ法、チョクラルスキー法、フラックス法(高温高圧法)で合成されています。

19世紀末頃、スイスで商品にならない屑ルビーを集め、それらを加熱して融かして一つにし、冷やして再結晶させた“ジュネーヴ・ルビー”が出回りました。その後、ベルヌーイ法合成ルビーが出回るようになりました。

現在では、安価な溶融法で合成されたものは工業用途や飾り石に使用されています。合成ルビーは、天然と同じ原理で手間とコストと時間のかかるフラックス法です。明治から昭和初期にかけてはジュネーヴ・ルビーやベルヌーイ法で合成されたものも宝飾用途に多用されたため、その当時現役だった世代から相続したルビーやサファイアを鑑定すると、合成石であることが多々あります。

現在でも溶融法合成石と、それ以外の合成石、天然石は混同されやすいですが、鑑別法が確立されているため基本的に区別は容易になりました。また、これらを使った悪質な販売方法もあるのでご注意を。

合成ダイヤモンド

主にフラックス法、化学気相成長法で合成された合成ダイヤモンドは、全て工業用途に用いられる。

宝石に用いる品質の石を合成するには製造コストがかかり過ぎ、同じ大きさの天然石の方が安価なので宝飾用合成ダイヤモンドが市場に出回ることはないようです。

合成エメラルド

フラックス法で合成される他、価値の低い天然ベリルを母材とした熱水法が使用される。合成エメラルド開発で培われた技術は、現在のハイテク素材開発の基礎となっていると言われるほど、難易度の高いものでした。

合成エメラルドは天然石よりも、インクルージョン(内包物)や傷のまったくない宝石的価値の高い美しさが得られる。中には、故意に傷やインクルージョンを入れ、天然石と偽って売る業者もいる。

合成アレキサンドライト

フラックス法で合成されるアレキサンドライトは、天然石が市場に出回る数が少なく、合成石、もしくは模造石が出回った。石そのものの特性に人気があったため、天然でも合成でも価格は高いです。


京セラのクレサンベール

クレサンベールとは、京セラが独自の技術で開発した、天然石と同一の成分の物質を長時間かけて入念に再結晶化させた宝石や、天然宝石と同一の成分を持つ人工的に作ったオパールの総称です。

このクレサンペール誕生の背景には、採掘に限りがある天然宝石の質の低下、価格の高騰がありました。色が美しくなかったり、キズやインクルージョン(内包物)があったり、これらを当たり前のように人工処理された宝石がある中、特に自然界に見いだすことが難しくなってきた宝石本来の美しい「色」を現代技術の力で再現し、人々に宝石を身につける豊かさを満たすためでした。

なお、現在も販売されています。


人造宝石

類似石またはイミテーションと呼ばれる。 イミテーションにもっともよく用いられる素材はガラスです。

ルビー、サファイア

鑑定技術が未熟だった時代に、ルビーは、天然スピネルやルベライトが類似石として代用された時代が長く続きました。類似石の時代が終わるきっかけとなったのが、格安のコストで合成できるベルヌーイ法の合成ルビーの出現です。厚みの薄い天然ルビーや天然サファイアの下部に合成ルビーや合成サファイアを張り合わせたダブレットという模造宝石も誕生しました。

ダイヤモンド

ダイヤモンドのイミテーションはダイヤモンド類似石と呼ばれ、その歴史は200年前から始まります。用いられた素材もガラス製のラインストーンを振り出しに十数種存在する。イギリスでは4月の誕生石にダイヤモンドと共に水晶が入るが、これなどはかつて水晶をダイヤモンドの類似石に用いていた時代の名残だそうです。現在は、ガラスを除けば1960~70年代にかけてダイヤモニア(ダイアモネア)の名で流通したイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)と、その後登場したキュービックジルコニア(CZ)です。現在はCZが主流です。

エメラルド

色ガラスやプラスチックに薄い天然石や合成石を貼りあわせたダブレットや、悪質なものには2つの水晶の間に緑のシートを挟んだだけのトリプレットなど模造宝石がある。エメラルドの場合、天然石には内部に無数の傷が見られるのに対し、合成石や類似石には傷がないので、美しく見えます。ただし、合成石にも故意に傷や内包物を入れたものがある一方で、天然石にも内部に傷がほとんどない石(非常に高価である)があったりするので内放物だけで判断するのは注意が必要です。

オパール

ガラスや樹脂を使用し、干渉膜を表面に形成するもの、封入するもの、底面に印刷したものなど様々なものがある。 また、ブラック・オパールの類似石としてアンモライトが用いられることがある。

母岩が薄かったりオパール層が薄く宝石として強度がない場合、これらを張り合わしたダブレットや、オパール層と母岩の間にガラスや水晶を挟むトリプレットといった、模造宝石に分類される技法も多用される。

トルコ石

古代エジプトからイミテーションが存在していた石。使われる素材もガラス、プラスチック、セラミック、陶磁器、樹脂、焼結合金、他の石(ハウライト)を染めたものなど様々で、もっとも見分けがつきにくいのは、研磨の段階で出た本物のトルコ石の粉末を樹脂で固めたニセモノである。中には非破壊検査では見極めがつかず、破壊検査を経なければ真贋の決め手がない精巧な石も多数存在する。なお本物の色の薄い石や脆くて壊れやすい石を染色したり、補強のため樹脂を浸透させた石もかなりあるが、それらはいちおう処理宝石扱いとされる。市中に出回っているトルコ石の90%はこうした類似石、9%が処理宝石で、生粋のトルコ石はわずか1%と言われています。


模造宝石

ガラス、磁器、アクリル、木、貝、骨などを加工してできた装飾用の素材。鑑別が不要なほど明らかな偽物もこれに含まれます。

19世紀初頭の産業革命の時代。本物の宝石を用いたジュエリーは、それまで王侯・貴族など支配者層の所有物であったが、経済的、時間的に余裕を持て余した新興富裕層が、こうした上流階級の暮らしぶりに目をむけ、それを模倣するようになりました。しかし、当時の宝石産出量は現在よりずっと少なく、需要と供給のバランスが崩れた結果、比較的入手しやすい代替素材が模造宝石として広く認識されました。

現在では、アンティークとして、当時の模造宝石が本物顔負けの高値で取引されているものも多くみられます。

マルカジット/マーカサイト

黄鉄鉱を加工して6面のカットを施し、宝石同様に台座に爪で固定したもの。技術的には古代ギリシャから存在したが、18世紀中ごろからこれもダイヤモンド類似石として登場し、20世紀初頭には極限に至るまで精緻なレベルに発展を遂げました。

ラインストーン/ペースト/ストラス/フォイルバック

素材はクリスタル・ガラスで、これで宝石を形作り、カットを施したもの。あるいは、液体のガラスをカットした宝石の型枠に流し込んで固め、仕上げに磨いたもの。ガラス中の鉛の含有量が多く、柔らかいのをペースト、少なく硬質のものをストラスと云う。ペーストは1670年代、ストラスは1720年代より存在するが、やはりダイヤモンド類似石として登場し、やがてそこから離れて18世紀には独自の発展を遂げる。フォイルバックはこれらの石の裏面に金属箔や色の着いた薄膜を差込んだり、膜を蒸着させたりして、光の反射(ダイヤモンドのファイア)の増幅や、カラーストーンを真似る技法で、この技法を用いて模造された石です。

従来からのクリスタル・ガラス製品で有名な会社といえばスワロフスキー社です。

コスチューム・ジュエリー/ミリアム・ハスケル

20世紀初頭にアメリカ合衆国のジュエリーデザイナー、ミリアム・ハスケルが創始し、彼女の名前がこの分野のブランドとして残っている。

宝石や貴石をほとんど用いずに製作されるジュエリーで、資産価値に重きを置かない、あくまで身を飾るためのジュエリー。安価な素材を用いることで傷などついても気にならず、気楽に装着できて外出できるジュエリーにすると云う意図があった。

現在では樹脂やプラスティックの素材が主流です。

ダブレット/トリプレット

複数の素材を組みあわせ、あたかも一つの独立した石のように見せかけた模造石。人工素材の上に天然素材を被せることで、あたかも石全てが天然素材であるかの如く装うことを目的とする場合が多いため、他の模造宝石のような独自の価値はなく、たいてい偽物、まがい物として扱われる。ダブレットは2素材、トリプレットは3素材を組み合わせた石です。

トリプレット手法を用いたオパールの模造石はよく見かけます。


天然石は天然石であり、合成石は合成石である

この事実は変わりません。ある一部の合成石の製造者が、内部特徴まで天然石に似せようという私利私欲の結果です。現在は、合成石と天然石との区別はますま す困難な状況になっています。鑑別機関は科学的方法を駆使して、これを見破ろうとしています。その攻防はこの先もなくなることは難しいです。

一般的に宝石の条件は、美しさ、耐久性、稀少性です。稀少性という点では、大量生産できる合成石は天然石に劣ります。美しさはエメラルドのように時に合成石の方が勝ります。合成石は、合成成分を計算し、人工的につくるものなのですから、仕上がりは色も美しさも均一です。合成石と表記して、売られることは、なにもわるいことではありません。合成ルビーでは売れないから、シンセティック・ルビーと名前を変えてして売る。シンセティックとはまさに合成のことですから、もしその種の説明があるなら、これも許されることです。

合成の技術が進歩するにつれ、天然石の価値が落ちることはありません。天然石は、この地球の奥底で、膨大な時間をかけて、生成された天然の産物です。この地球の贈りものです。古来から、人は宝石にさまざまなメッセージを読み取り、それをつぎの世代へと引き継いでいる歴史があります。